分析化学
Print ISSN : 0525-1931
年間特集「金」:総合論文
なぜ希硝酸を混合した海水中に純金は溶解するのか?
北條 正司
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2014 年 63 巻 9 号 p. 715-726

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抄録

塩を混合することにより,濃硝酸ばかりか希硝酸にも酸化力が発現することを確認する目的で,アルカリ金属,アルカリ土類金属及びアルミニウム塩化物塩を含有する0.1~2 mol dm-3硝酸中に貴金属類,特に,金を溶解することを試みた.2.0 mol dm-3 HNO3にAlCl3を1.0 mol dm-3混合した20 mL溶液中(15~80℃)に,純金板(20 ± 2 mg,厚さ0.1 mm)は完全溶解するが,温度の上昇に伴い,完全溶解に要する時間は著しく短縮した.40及び60℃ において,塩化物塩を混合した2.0 mol dm-3 HNO3溶液中での金線(19.7 ± 0.5 mg,直径0.25 mm)の溶解速度定数[log (k/s-1)]は,一般的に塩濃度の増大と共に上昇した.例えば,60℃ において2.0 mol dm-3 HNO3溶液中にLiClを1.0,2.0,3.0及び4.0 mol dm-3混合すると,log (k/s-1)値はそれぞれ-4.15,-3.77,-3.45及び-3.14へと上昇した.ずっと濃度の低い硝酸(0.1~1.0 mol dm-3)を用いると金線の全溶解時間は著しく長くなった.純金の溶解は,硝酸及び塩酸濃度の低い「希王水」,例えば,1.0 mol dm-3 HNO3と1.0 mol dm-3 HClの溶液中でも起こる.50 mL海水と2.0 mol dm-3 HNO3の1 : 1混合液中に,金線5本(0.10 mg)を100℃ において約17時間で完全溶解させることに成功した[log (k/s-1)=-4.52].塩酸濃度の増加に伴うラマンスペクトル変化に基づき,バルク水構造の破壊及び水の特性の変化を議論した.

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© The Japan Society for Analytical Chemistry 2014
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