2018 年 67 巻 11 号 p. 653-660
走査型電気化学顕微鏡は試料近傍の酸化還元種を検出し,マッピングする装置である.本総合論文では,電気化学計測に基づき受精卵や胚様体,細胞塊の機能評価を実施した研究について紹介する.球面拡散の原理に基づき球状の個々のサンプルが生成・消費する物質の流束を求めることで,酸素消費量(呼吸活性)や,アルカリホスファターゼ及びベータ-ガラクトシダーゼなどの酵素活性を評価した.走査型電気化学顕微鏡に基づく受精卵の呼吸測定は,タイムラプス顕微鏡や網羅的遺伝子発現解析など複数のパラメーターと組み合わせることにより,受精卵の発生過程のモニタリングや個々のサンプルの品質評価に応用できる.胚様体の呼吸活性やアルカリホスファターゼ活性と分化能の関係が評価されている.電気化学的にベータ-ガラクトシダーゼ活性を評価することにより,細胞塊の老化について定量することが可能となる.