2020 年 69 巻 6 号 p. 271-278
リチウムイオン電池の開発に対してノーベル賞が授与されたものの,自動車や再生エネルギーの電力貯蔵に用いるには,さらにエネルギー密度を高めた次世代蓄電池の開発が急務となっている.その一つとしてリチウム─硫黄電池が期待されている.リチウム─硫黄電池の実現には,電解液の開発が行方を握っている.電解液中のリチウムイオンの局所構造や電解液の液体構造は,起電力や充電の速さなど電池性能に直接影響を与える.言い換えると熱力学的にだけでなく,速度論・ダイナミクスの点でも電池性能を支配している.最近,正極不溶性の電解液を用いる新たなリチウム─硫黄電池が提案され,原子・分子レベルで電解液を明らかにすることが重要な役割を持つ.本稿では,正極不溶性の電解液である溶媒和イオン液体について,液体構造やスペシエーション分析,溶媒和イオン液体に特異的な新たなイオン伝導機構について概説する.