2020 年 69 巻 6 号 p. 279-290
絶縁ワニス中のポリエステルイミドの化学構造の差異が焼付後のエナメル皮膜表面硬さに与える影響を考察した.ワニス作製条件や皮膜焼付条件,従来の機械的特性・熱特性評価で可とう性等の物性が同等であるマグネットワイヤでも,ナノインデンテーション法では皮膜表面硬さが異なることを明らかにできた.また焼付前のポリエステルイミドワニスをアセトニトリルで溶媒抽出し,アセトニトリル可溶分及びアセトニトリル不溶分を液体クロマトグラフ─質量分析計(LC-MS),核磁気共鳴分光分析装置(NMR)で分析した.その結果,アセトニトリル可溶分に含まれる,エステルイミド等の低分子量成分の割合及びアセトニトリル不溶分ポリエステルイミド末端エチレングリコールユニットの割合が,皮膜表面硬さに影響を及ぼしている可能性を見いだした.これらの結果から,表面硬さをコントロールするために,ポリエステルイミドの化学構造の分析が必要であることを示した.