2021 年 70 巻 3 号 p. 93-100
既存の化学センサの基本概念である鍵と鍵穴モデルに則ると,化学センサの認識部位が分析検体の構造に合致する必要がある.しかしながら,生体内での検出に目を向けると,検体及び化学センサが様々なコンフォメーションを有し,予想もできない溶媒和殻が形成される.この結果として,低感度・低選択性を付することが多々ある.このような従来法と相補的な代替戦略として,著者らは「超分子アロステリックシグナル増幅センシング」(Supramolecular Allosteric Signal-amplification Sensing; SASS)手法を提唱した.本法の特徴は,精密な構造合致の必要がなく,アロステリズムを鍵過程として錯形成定数,ひいてはシグナル応答を増幅させることである.シグナル増幅リポーターとしてポリチオフェンやグルカンを用いることにより,これまでに分析が困難であったアミノ酸,ペプチド,オリゴ糖の高感度な検出を達成している.本稿では,このSASSの計測原理とその研究事例について紹介する.