2022 年 71 巻 10.11 号 p. 603-608
カーボン材料が可視光領域で吸収を持つことに着目し,この性質を利用してラマンスペクトル測定時の蛍光に由来するベースラインの上昇の抑制を試みた.実験には,蛍光剤を含むエポキシ樹脂にカーボン材料を添加した試料を用いた.蛍光強度に対するエポキシ樹脂のラマン強度を相対ラマン強度と定義し,カーボン材料の濃度やカーボン種の影響を調べた.相対ラマン強度は大きいほど蛍光を抑制する効果が高いことを示す.調査の結果,カーボンブラックの場合,試料に対して3.0 mass% の濃度で最も高い相対ラマン強度を示し,蛍光によるベースライン上昇が抑制された.また,8種類のカーボン材料のうち,ケッチェンブラックが最も高い相対ラマン強度を示した.カーボン材料の可視光領域での吸光係数を調査した結果,吸光係数が高いカーボン材料ほど相対ラマン強度が高くなった.よって,カーボン材料を利用した蛍光の抑制にはカーボン材料による蛍光の吸収が深く関わっていると推測する.