2022 年 71 巻 7.8 号 p. 391-397
近年,マイクロメートルサイズの油中水滴(マイクロ水滴)を反応場として利用し,微小・微量試料をハイスループットに計測する技術が注目を集めている.マイクロ水滴内に微量の試料や試薬を閉じ込めることで,拡散希釈を抑制しながら反応・検出をすることができる.しかし,これまでマイクロ水滴内包物の分離・精製技術についてはほとんど報告がなく,マイクロ水滴内で実現可能な分析手法は限られていた.そこで著者らは,マイクロ水滴 – Span 80 – アルカンの系で起こる自然乳化におけるマイクロ水滴–逆ミセル間の分子輸送に着目し,マイクロ水滴内包物の選択的濃縮法を開発してきた.本稿では,自然乳化によるマイクロ水滴内選択的濃縮法について概説したのち,自然乳化における分子輸送メカニズムの詳細と本手法の制御因子について説明する.さらに,本手法の生化学分析への応用を紹介する.