2023 年 72 巻 4.5 号 p. 155-165
特定のイオンを選択的に認識し,その応答性を電気化学信号もしくは光信号で示すことができる認識化合物は,センサへの利用が期待されるイオン感応物質として特に着目される.ごく微量で高い性能が期待されるイオン認識化合物の分子設計において,イオン捕捉に適した分子構造は重要となる.本総合論文では,1分子で2 : 1錯体同様のイオン捕捉が可能なビス型誘導体や,正三角形に導入された配位性置換基で分子内包するようなイオン捕捉が可能なC3対称性椀型(わんがた)誘導体などにおいて著者らが行った分子設計を,分子軌道計算を使った事例を含めて紹介した.分子構造と電子状態の両方が影響することは,鞍型(くらがた)誘導体の密度汎関数法計算を例に示した.加えて,イオン選択性電極の性能に影響する因子についてまとめた.また,認識変化に利用できる物性ついても取り上げた.そして,電極膜の違いや変化の評価法として有効であった1H核磁気横緩和時間T2測定についても述べた.