2025 年 74 巻 3 号 p. 67-79
有機化合物の安定炭素同位体組成の天然変動の分析(以下「同位体分析」)は,有機化合物の起源を追跡する手段として,宇宙・地球化学関連分野をはじめ,生態学,食品化学,法科学などで利用されている.現在,有機化合物全体の安定炭素同位体比(13C/12C比)を分析する「化合物別炭素同位体分析」が主に用いられている.一方,化合物内の特定の炭素位置や部位の13C/12C比を分析する「部位別炭素同位体分析」は,化合物別炭素同位体分析よりも詳細な起源情報を提供する方法として注目され,開発と利用が進んでいる.本総説では,同位体比質量分析法(IRMS)を用いた有機化合物の部位別炭素同位体分析に焦点を当て,その方法,開発と利用の経緯,課題を概説する.また,食品・飲料業界における起源追跡の事例として,香料や化成品原料に用いられるバニリンの化合物別及び部位別炭素同位体分析を紹介する.