分析化学
Print ISSN : 0525-1931
ナフタリン,フェナントレン,アントラセン,クリセンの管状温度こう配炉中における昇華分離分析
管状温度こう配炉による分離分析(第3報)
重富 康正山本 修三
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1968 年 17 巻 12 号 p. 1477-1481

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抄録

定温管状温度こう配炉中でナフタリン,フェナントレン,アントラセン,クリセンなどを昇華させ昇華に及ぼす温度,排気圧の影響を調べ,これら物質の分離定量分析の可能性につき検討した.
その結果,排気圧が低いほど昇華帯の幅がせばまり低い温度に昇華しよく分離されたが,1mmHg以下の排気圧ではナフタリンの凝結はみられなかった.排気圧1mmHgではナフタリンは30~40℃,フェナントレンでは45~80℃,アントラセンでは50~90℃,クリセンでは144~158℃に昇華帯が形成され,フェナントレンとアントラセンの混合物からの相互分離は困難であったが,他はだいたい定量的に分離され,これら混合試料中からの定量分析も可能であった.特にフェナントレン,アントラセン,クリセン中からのナフタリンはほとんど誤差なく定量できた.
また試料を昇華精製する場合,管状温度こう配炉中での精製では試料添加量は内径10mmのガラス管に対し10mg~30mgがよく,これ以下あるいはこれ以上の場合はいずれも誤差を与えた.
また通常の減圧精製法に比べ,管状温度こう配炉中での昇華は1回の昇華できわめて純粋な物質が得られることがわかった.
ニクロム線を巻いた磁製管内部に冷却用らせん管を通し,ニクロム線で加熱しながららせん管の下部より上方に向け一定流速で空気を流すことによって定温管状温度こう配炉が得られた.この炉中でナフタリン,フェナントレン,アントラセン,クリセンなどの芳香族炭化水素を昇華し分離することができた.特にフェナントレン,アントラセン,クリセン中のナフタリンはほとんど誤差なく定量分析できることがわかった.またこの方法を試薬精製に利用する場合,通常の減圧精製法に比べ1回の昇華で非常に純粋な物質が得られることが吸収スペクトルの測定から判明した.またさらに試料添加部分の温度をできるだけ低くすると同時に,昇華管中の温度こう配をゆるやかにし,ゆっくり昇華熟成させることにより,大きな結晶が得られた.またゆるやかな温度こう配で何度も昇華をくりかえすことにより,通常の方法では分離困難な類縁物質の分離ができるのではないかと思われる.

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© The Japan Society for Analytical Chemistry
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