日本物理学会誌
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最近の研究から
絶縁層に極性分子をもつ有機超伝導体
川本 正森 健彦
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2016 年 71 巻 8 号 p. 541-546

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抄録

通常の超伝導は電子–フォノン相互作用によって電子対が形成されるBardeen–Cooper–Schrieffer(BCS)理論で説明されているが,非フォノン型の電子対形成による非BCS型の超伝導についても多くの議論が続けられてきた.そのために,様々な超伝導物質の開発とその構造・物性の研究がなされている.多様な超伝導物質のなかで,例えば,銅酸化物高温超伝導体や鉄系超伝導体では,超伝導を担う伝導層の間に絶縁層が挿入された層状構造が特徴的である.ドナー分子とアニオン分子からなる有機超伝導体でも,伝導を担うドナー層と,ドナーから電荷を引き抜き結晶を支える役割のアニオン絶縁層とが交互に積層した構造が一般的である.なかでも,ドナー分子が2量体を構成して井桁状に配列したκ型と呼ばれるκ-(BEDT-TTF)2 X[BEDT-TTF: bis(ethylenedithio)tetrathiafulvalene, X: アニオン]は2次元電子系をもち,有機超伝導体のなかでは最も高い10 Kを超えるTcをもつ物質が発見されている.このなかで,アニオン絶縁層に溶媒分子を包含するドナー・アニオン・溶媒分子の3成分系物質では,溶媒分子が極性分子の場合,分極がドナー層の電子状態に影響を及ぼしている.非BCS型超伝導機構のひとつにGinzburgが提案したモデルがあり,そこでは金属層を誘電体層で挟んだ層構造での層間相互作用で励起子による電子対形成の可能性が示されている.極性溶媒分子を包含する3成分系有機超伝導体には,このようなモデルとの関連も示唆される.

3成分系である(DMEDO-TSeF)2[Au(CN)4](THF)[DMEDO-TSeF: dimethyl(ethylenedioxy)tetraselenafulvalene,THF: tetrahydrofuran]には2種類のκ型超伝導体が発見されている.そのひとつκH相ではアニオン層に包含された極性溶媒分子THFが強誘電的に配列して1枚のアニオン層を形成しており,ドナー層を挟んで反強誘電的に配列した構造をとっている.この物質のドナー層間の相互作用は角度依存性磁気抵抗によりインコヒーレント(電子の層間移動よりも層内散乱の頻度が大きい)であることが明らかになった.つまり,たわみのない2次元フェルミ面をもつことになるが,Shubnikov-de Haas(SdH)振動では断面積がわずかに異なる2つのフェルミ面が観測された.この物質には独立な2種類のκ型ドナー層がある.SdH振動の結果は2つのドナー層のバンド充填率が異なることを意味する.極性溶媒分子の影響でバンド充填率の異なる伝導層が単結晶を構成していると考えられる.

1994年に開発された超伝導体(BEDT-TTF)2Ag(CF34(TCE)[TCE: 1,1,2-trichloroethane]には多形があることが知られていたが,Tc~11 K相の構造は不明のままであった.放射光を用いた構造解析の結果,ドナー分子の配列が全く異なる2種類のドナー層,伝導層と電荷秩序層,が極性溶媒分子TCEを包含したアニオン層を挟んで交互に積層した新奇な構造であることが明らかになった.この電荷秩序層には2種類の配列パターンがあり,対称心のあるストライプ型の物質はTc=9.5 Kで,対称心のないチェッカーボード型の物質ではTc=11.0 Kである.さらに電荷秩序層をもたない物質はTc=2.6 Kと低くなる.分極した電荷秩序層の存在がTcを上昇させていることになる.

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