日本物理学会誌
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カラーグラス凝縮 : ハドロン,原子核の高エネルギー極限における姿
板倉 数記
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2004 年 59 巻 3 号 p. 148-156

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抄録

「陽子は3つのクォークからできている」という一般的な"常識"は,強い相互作用の基礎理論である量子色力学(QCD)に根差した現在の理解からすると,甚だ曖昧で不正確なものである.実際,非常に高いエネルギーでの散乱で弱結合理論になるQCDは,この素朴な"常識"からはほど遠い陽子の姿を予言する.すなわち,高エネルギーの極限では,陽子は「グルオン」というクォークとは異なる構成要素が高密度に飽和した状態になり,この現象は陽子に限らず,如何なるハドロン(陽子,中性子などのバリオンと中間子の総称)にも,原子核にも現れる普遍的なものである.この状態は,あたかもガラスのようにゆっくりと変化するランダムな「色」の荷電分布を背景にして,「色」を持つグルオンがボーズ凝縮のように高密度に凝集したものであるので,「カラーグラス凝縮」と呼ばれている.本橋では,この「カラーグラス凝縮」の生成過程と性質,記述方法,実験的証拠の有無などについて,最近の理論的発展を解説する.

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