Print ISSN : 0016-450X
バターエロー投与シロネズミの肝酵素の濾紙電気泳動的研究
第1報 ヒスチダーゼ
岸 三二鶴岡 延熹浅野 文一
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1958 年 49 巻 4 号 p. 281-286

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抄録

従来正常組織と癌組織の酵素を比較する場合に両者の酵素活性度を単に定量的に論ずることが多かった。癌化に当って酵素がはたして本質的に母組織のその酵素と相違して現われるかどうかを滬紙電気泳動法によって追究することを企てた。
実験材料に肝癌生成物質バターエロー (DAB) を投与したシロネズミ肝を選び, ホモジエネートとし, そのままかあるいは分屑を滬紙上に電気泳動し, 蛋白ゾーンの中に如何に酵素が配分されているかを観察した。
それには泳動後の滬紙を一定幅の多数片に裁断して一つ一つを酵素源とし, 同数のコーンウエイ装置を準備して, 基質ヒスチヂン溶液とpH 8.6の燐酸緩衝剤の混合液から22時間に産生するアンモニアを定量した。この数値をグラフの縦軸にとり, 横軸には切り取られた滬紙片の原点からの距離を目盛って結んで得た活性度パターンを検討した。
正常肝のヒスチダーゼ活性パターンは易泳動部に一箇の著しく突起している曲線を認めた。しかしてその位置は肝蛋白ゾーンの末端に近い部であった。正常肝のパターンと再生肝の示すものとは性格的には変りなかった。
DAB投与4週で上記パターンの特性が殆んど失われた。これは摂取したDABに直接影響されたものと思われる。DAB長期投与でしかも正常食に戻してなお飼育をつづけたシロネズミの病変肝のうち, 硬変肝は稍低いがパターンの特徴を示した。肝癌のパターンは最も低調であったが, 痕跡ながらなお特性がうかがわれた。これらの観察からヒスチダーゼはその産生される臓器, すなわち肝の癌化に伴って漸減する活性度の量的の差は諸学者の報告と同様であったが, 滬紙電気泳動法によっては性格的変化を認め得なかった。

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© 日本癌学会
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