2020 年 31 巻 p. 45-57
本稿では、1960年代の学生運動の文脈で女性が執筆した2つの語りを比較した。ひとつはメキシコのエレナ・ポニアトウスカ著『トラテロルコの夜』であり、もうひとつは高野悦子著『二十歳の原点』である。両作品とも1971年に出版されている。ポニアトウスカのテクストは、60年代のメキシコ学生運動における多くの声を盛り込み、ポリフォニー的な語りを通じて、拒絶された対話に代わる選択肢を学生たちに対し提供している。他方、高野の日記は親密な口調で告白と不安を綴り、アイデンティティの自問の背景として学生運動を語っている。2人の作家はそれぞれ文学的形式が異なるが、ポニアトウスカはオープンな対話、高野は内なる独白という形式を用いて、学生デモに揺れたこの時代を公式の歴史や現実に相対する形で表現した点に共通点を見出すことができる。