2015 年 26 巻 2 号 p. 155-161
要旨 心肺蘇生後に起こってくる心停止後症候群を如何に軽減させるか,それは早期から積極的に脳保護を念頭に置いた治療を行い,脳機能不全までの段階で負のカスケードを阻止して機能改善を図っていくことである.心肺蘇生時の救命救急処置法の改善および脳梗塞時の血流改善治療法の進歩および脳指向型集中管理法の併用により,神経機能回復に光明を見出すことができるようになってきたが,人の脳は,予備力が少なく,虚血侵襲に対しての防御機構を兼ね備えていない.また,神経細胞障害のメカニズムは複雑かつ多要素で,治療に対するtherapeutic window が極めて短く,脳機能不全から患者を完全に回復させ,社会復帰させることができる状況とは言い難く現在も社会復帰率の向上を目指した努力が続けられている.さらに,脳保護のためには,脳障害を誘発するメカニズムの解析が重要となるが,中でも,ミトコンドリア機能不全に焦点を当てた解析と創薬は蘇生後脳症の治療と脳保護において重要な役割を担うものと思われる.本稿では,心停止後症候群について触れ,これらの要因となる虚血性神経細胞死のメカニズムを紹介し,細胞死誘発に深く関わるミトコンドリア機能不全とカルシニューリン・イムノフィリン情報伝達系の重要性を概説した.