2010 年 10 巻 p. 100-110
糖鎖の変化が癌において果たす役割を解明することを目的にして、乳癌の発症および進展に伴う糖鎖遺伝子107種の発現変化をGEO登録データを利用して、in silico解析を行った。GEO登録データGSE15852に基づき、43名の乳癌患者から採取された乳癌組織および対応する正常組織における遺伝子発現を比較したところ糖鎖遺伝子中24種が統計的に有意に発現変化していることが明らかになった。発現変化した遺伝子の分類は、N-アセチルガラクトサミン転移酵素5種、糖ヌクレオチド輸送体3種、アスパラギン結合型糖鎖修飾酵素3種、N-アセチルグルコサミン転移酵素2種、フコース転移酵素2種、硫酸転移酵素2種、スルファターゼ2種、グリコサミノグリカン合成酵素、グリコシル基転移酵素、グルコース転移酵素、シアル酸転移酵素、及びN-アセチルグルコサミニダーゼ各1種であった。更に、癌の進行段階に依存して特定の糖鎖遺伝子の発現が変化するか否かを解明することを目的として、GEO登録データGDS2045に基づく、乳管癌の前浸潤性と浸潤性間の遺伝子発現の比較を行ったところ6種の糖鎖遺伝子に有意な発現変化が認められた。また、注目すべきことに、この中、3種が硫酸基付加関連の遺伝子であった。発現変動が認められた糖鎖遺伝子を糖鎖代謝パスウェイにマッピングし、糖鎖遺伝子の発現変化が発癌に及ぼす効果について、既知実験報告を参照して議論した。