2004 年 4 巻 3 号 p. 73-92
ヒト8-oxoguanine DNA glycosylase 1 (hOGG1) はDNA修復酵素の一つである。これによる修復機構では、8-oxoguanineとリボース間のN-glycoside結合開裂反応が生起する。この反応を原子レベルで解明するために、触媒アミノ残基Lys249と8-oxoguanine(8-oxoG)を含むguanosine反応モデルについて、B3LYP/6-31G**レベルの量子化学計算を行った。計算の結果、この反応メカニズムは3つの素反応により構成されることが分かった。第一段階素反応は、Lys249のammonium groupから8-oxoGの酸素原子(8O)へのH+移動反応である。この反応は、8OとdeoxyriboseのO4'間の水素結合生成を伴う。第二段階反応は、Lys249の側鎖窒素原子(Nζ)によるdeoxyriboseのC1'への求核攻撃反応と8OからO4'への自発的H+移動の協調反応である。第三素反応は、Nζから8-oxoGのN9へのH+移動反応である。この最終反応により、C1'とN9の間のN-glycoside結合は完全に開裂する。この反応の最終生成物はSchiff-baseであることが確認された。第一素反応と第二素反応では反応に8Oが係っている。従って、この酵素反応は基質支援触媒反応であると言える。この反応経路は取り分け大きな活性化エネルギーを要することも分かった(<42kcal/mol)。この結果は、hOGG1の酵素活性が低いという実験事実を非常に良く反映している。