Chem-Bio Informatics Journal
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Artificial Neural Network による網羅的探索を用いたHelicobacter pylori持続感染関連遺伝子多型の同定
武藤 裕紀浜島 信之田島 和雄小林 猛本多 裕之
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2005 年 5 巻 2 号 p. 15-26

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抄録

最近の研究の成果から,多因子疾患の発症には一塩基多型などの遺伝因子だけでなく,喫煙,アルコールといった環境因子が関与することが示唆された.Helicobacter pylori(H. pylori)持続感染は,慢性胃炎など様々な胃疾患のリスクファクターとして知られている.H. pylori持続感染には衛生環境が大きく影響するが,同様の衛生環境でH. pyloriにさらされていても持続感染に進展する人としない人がいるため,その間に遺伝的免疫機構の差異があると考えられる.ある環境因子の影響下におけるH. pylori持続感染に関与する遺伝子の組み合わせを同定できれば,テーラーメイド医療への貢献が期待できる.我々は機械学習法,Artificial Neural Network (ANN)を用いて,37候補遺伝子多型のうち数個から持続感染有無を推定するモデルを構築,推定正答率の高い遺伝子多型の組み合わせの網羅的探索を行った. 3遺伝子多型NQO1,IL-1β,GSTT1の組み合わせで最も高い推定正答率72.6%を得た.従来法の1つ,ロジスティック回帰分析による推定正答率に対し,有意に高い正答率を得た.さらに,喫煙歴のないグループと,喫煙歴のあるグループに分けて同様の解析を行った.喫煙歴のないグループにおいてはIL-10,NQO1,Le,また喫煙歴のあるグループではIL-1β,IL-10,CCND1の組み合わせで,それぞれ最も高い推定正答率を得た.この結果,喫煙歴によってリスクファクターとなる遺伝子多型が異なることが示唆された.逆にリスクファクターとなる遺伝子多型をもっていても、環境因子をコントロールすることで(禁煙しておれば)持続感染に至らない可能性が高いことも示唆された。われわれの手法を用いることで,関与の報告のある遺伝子を事前知識なしで,かつ自動的に同定することに成功した.また,これらの遺伝子を組み合わせとして抽出することができた.本手法は多因子疾患のリスクファクター解析における有用なツールとなる

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2005 Chem-Bio Informatics Society
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