Chem-Bio Informatics Journal
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ケミカルバイオロジー/ ケミカルジェネティクス/ ケミカルゲノミクスにおけるケミカルライブラリーの重要性
九川 文彦渡辺 勝玉野井 冬彦
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2007 年 7 巻 3 号 p. 49-68

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抄録

ケミカルバイオロジー/ ケミカルジェネティクス/ ケミカルゲノミクス(cb/cg/cg)は1990年代の後半に特にアメリカ合衆国(その誕生にはNIH Roadmapが大きな役割を果たした)で生まれた新しい学問であり、低分子量有機化合物を取り掛かりとして、生体内の生命反応をより詳細に明らかにしていこうとする、化学と生物学の橋渡しを目指した、非常にユニークな学問領域である。cb/cg/cgは3つのカテゴリー(ケミカルリブラリー、ハイスループッドスクリーニング、バイオインフォマティックス)から構成されるが、その中で特にケミカルライブラリーは重要である。ケミカルライブラリーは、天然物由来のそれと化学合成されたライブラリーの2種より構成される。天然物由来のライブラリーは、古くから(特に本邦を始めとするアジア諸国では)生薬由来の医薬品や抗生物質の起源として製薬業界で重用されてきた。これら天然物由来のケミカルライブラリーのもつ「化学物質としての多様性と複雑さ」をさらに向上させるために、1990年代末に、ハーバード大学のスチュワート・シュライバーのグループは、ダイバーシティーオリエンティッドシンセシス(DOS)という、低分子量有機化合物ライブラリー構築のための新しい概念を完成させた。DOSに基づいて構築された合成低分子量有機化合物ライブラリーは、NIH MLSCNを始めとするスクリーニングセンターや、UCLA MSSRのような独立型スクリーニングセンターにおいて活躍している。本総説では、cb/cg/cg研究の由来から説き起こし、天然物由来ならびに合成低分子量有機化合物ライブラリーをもちいたcb/cg/cg研究の最先端の成果をいくつか紹介する。また、シンプルな化合物を出発点とし、いかに複雑かつ多様な低分子量有機化合物を合成しているのかという、DOSの戦略についても考察したい。cb/cg/cgは、実質的には今世紀になって産声を上げたといってもよい新しい生命科学であるが、その「ポストゲノム時代」におけるインパクトは計り知れないものがある。

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2007 Chem-Bio Informatics Society
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