日本化学療法学会雑誌
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成人における多剤耐性肺炎球菌呼吸器感染症の臨床的検討
二木 芳人玉田 貞雄中島 正光松島 敏春藤井 千穂
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1996 年 44 巻 1 号 p. 19-24

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抄録

近年本邦においても増加傾向が著しいと報告されている多剤耐性肺炎球菌につき, 成人領域の呼吸器感染症例を対象として臨床的検討を行った。対象期間は1993年11月より1995年2月までの16か月間とし, この閥に川崎医科大学附属病院中央検査室細菌部門で分離された肺炎球菌120株につき, その種々の宿主側あるいは医原性要因を診療記録より検討した。その結果, 感染症状の不明確なものや, 小児科や耳鼻科, 眼科領域などでの感染症を除いた78症例が成人呼吸器感染症として検討対象とされた。その内訳は肺炎32例, 慢性気道感染症18例, その他の呼吸器感染症28例で, 診療科別には内科各科40例, 救急部20例などで, 全体としての肺炎球菌耐性率は中等度耐性28.2%, 耐性19.2%の合わせて47.4%であった。しかし, 肺炎例について診療科別の耐性率を比較した場合, 内科症例での15.4%に比し救急部症例のそれは72.7%と著しく高く, 基礎疾患の有無, 種類や抗菌薬選択の基準の違いがその一因と考えられた。全体としては高齢者に耐性菌感染の率は高い傾向が示された。また, 内科症例では慢性気道感染症例で耐性率が64.3%と高く, くり返し投与される抗菌薬の影響などが考えられた。治療効果はペニシリン系薬や第一世代セフェム薬では, 耐性菌感染例で十分な効果の得られないものも見られた。反面, 中等度耐性株による市中肺炎などでは, penicillin Gの十分量の投与で著効をみるものもあり, 治療上も各種危険因子や薬剤の特性を考慮した薬剤選択が重要と考えられた。

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