日本化学療法学会雑誌
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マクロライド系抗菌薬が好中球細胞内カルシウム濃度および細胞機能に与える影響
進藤 奈邦子
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1997 年 45 巻 1 号 p. 15-20

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抄録

近年マクロライド系抗菌薬の宿主免疫能に対する調節作用が注目を集めている。本研究は細胞機能を調節する因子として細胞内カルシウム濃度に着目し, マクロライド系抗菌薬のうち, エリスロマイシンとクラリスロマイシンが, in vitroにおいてヒト好中球細胞内カルシウム濃度 ([Ca2+] i) と細胞機能にどのような影響を与えるかを検討した。[Ca2+] iはfura 2-AMを用いて測定し, 細胞機能は, 貧食能と遊走能を観察した。エリスロマイシンとクラリスロマイシンは臨床的に到達可能な比較的低い細胞外液濃度 (0.04μg/ml~0.2μg/ml) で [Ca2+] iを低下させ, 貧食能と遊走能を亢進させた。比較的高濃度 (1μg/ml) におけるデータは, クラリスロマイシンとエリスロマイシンで [Ca2+] iの低下は軽度に抑えられ, クラリスロマイシンでは貧食能, 遊走能は不変あるいは減少する傾向があるが, エリスロマイシンでは貧食能, 遊走能は増加し続けており, 両者の間に細胞機能に対する薬理作用の相異がみられた。クラリスロマイシンでは [Ca2+] iの低下に伴い貧食能と遊走能の充進が見られることから, クラリスロマイシンが好中球のカルシウムポンプを調節して [Ca2+] iを低下させるだけでなく, 細胞内貯蔵カルシウムにも何らかの影響を与えている可能性が示唆された。また, 比較的高濃度のエリスロマイシンでは [Ca2+] iを介さない他の薬理作用によって貧食能や遊走能が亢進している可能性が考えられた。本研究によりマクロライド系抗菌薬が, 宿主の好中球に直接作用して細胞内カルシウム濃度の基礎値を下げ, 細胞機能を充進させることによって宿主の生体防御機構を賦活化している可能性が示唆された。また, カルシウムポンプの機能低下により好中球機能が障害されていると考えられる慢性病態におけるマクロライド系抗菌薬の作用機序について考察した。

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