日本化学療法学会雑誌
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イヌにおけるvalproic acidとpanipenemの相互作用
山村 直敏井村 薫長沼 英夫
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1998 年 46 巻 2 号 p. 81-86

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抄録

Panipenem (PAPM) 併用投与によりバルプロ酸 (VPA) の血漿中濃度が低下する臨床事例が報告されている。本研究は両薬剤の相互作用の原因を解明する目的で, イヌを用いてVPAの血漿蛋白結合, 血漿中, 尿中VPAおよびVPAグルクロン酸抱合体 (VPA-Glu) について検討した。さらに肝臓および腎臓のミクロソーム (Ms) を用いてグルクロン酸抱合酵素 (UDPGT) 活性を測定した。その結果, PAPM 50mg/kgを静脈内投与することにより, VPA 30mg/kgを経口または静脈内投与後の血漿中濃度の生物学的半減期は, それぞれVPA単独投与時の約1/4および1/10にまで有意に減少し, AUCも35%および40%にまで減少した。VPA経口投与後のCmaxおよびTmaxはPAPM併用投与により変化せず, 吸収には影響が認められなかった。VPA血漿中非結合形分率は, 総血漿中濃度に依存して7~36%の範囲で変化したが, PAPM併用による影響は見られなかった。VPAを定速静注し, 定常状態とした時のVPA-Glu血漿中濃度および尿中排泄速度は, PAPM併用投与期間において有意に増加した。このVPA-Gluの生成を担うUDPGT活性はイヌの腎Msに認められなかったが, 肝Msに認められた。PAPM以外にメロペネムの併用によって同様にVPA血漿中濃度消失の促進が認められたが, セフォゾプラン, フルモキセブ, セブメタゾールおよびセファレキシンはVPAの体内動態に対し影響を及ぼさなかった。以上より, VPAとPAPMの相互作用はVPAの血漿蛋白結合率の変化によるものでなく, 肝臓におけるVPAのグルクロン酸抱合活性の亢進に起因していることが示唆された。また, この作用はカルバペネム薬に特異的であり, セフェム薬との併用投与では起こらないものと思われる。

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