2001 年 49 巻 1 号 p. 1-9
われわれは, 抜歯に代表される歯科の観血処置による過性菌血症を歯科の観血処置前の抗菌薬の投与によって予防することが可能であるかどうかを検討した。従来, 歯科の観血処置前の抗菌薬の投与については, 1977年のAHA (American Heart Association) の報告からはじまり, 1997年のJAMAにPrevention of Bacterial Endocarditisが掲載されている。これらの報告は, MICが劣化しているcephalexinが推奨されるなど, 問題が多い。そこで, 日本において利用しやすい抗菌薬の予防投与法を作成することを目的に検討を行った。
(1) 健常者での抜歯時菌血症の発症率の検討。
血液培養陽性率は69.2%であった。Streptococcus milleri groupとPeptostreptococciの検出率が最多であった。
(2) ハイリスク患者 (心弁置換術後とか過去の細菌性心内膜炎罹患者など) に対する静脈内点滴注射による抗菌薬の前投与時の抜歯時菌血症の発現率の検討。
236症例に対して8薬剤の検討を行った。カルバペネム系抗菌薬がもっとも成績がよかった。
(3) 中等度リスク患者 (心室中隔欠損症とその術後など) に対する経口抗菌薬の前投与時の抜歯時菌血症の発現率の検討。
開業歯科医が使用できる経口抗菌薬4薬剤で検討した。Amoxicicillinを用いた時の陽性率は26.7%でもっともよかった。Amoxicillinの500mgを服用してから61分~120分, あるいはfaropenemの400mgを服用してから70分~120分の問に抜歯をするのが, 血液培養の陽性率を低くすることができる。
(4) 抜歯を含む歯科観血処置の前に抗菌薬を予防投与することは, 心弁置換術後, 心弁逸脱症と心内膜炎罹患歴の症例をはじめ, 心室中隔欠損症とその術後の症例に対しても, 医療保険で認められている数少ない適応である。心内膜炎に罹患すれば多大の医療費を要するとともに患者の苦痛も多大である。それを少なくすることは, われわれの義務である。