日本化学療法学会雑誌
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他剤無効例に対するcefepimeの臨床効果に関する市販後特別調査
斎藤 厚大塚 真奈美小林 一雄大坪 一之
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2002 年 50 巻 1 号 p. 29-46

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抄録

細菌感染症に対するβ-lactam系薬による治療無効例の要因の主なものとして起炎菌が産生するβ-lactamaseによるものが考えられる。Cefepime (CFPM, 注射用マキシピーム ®) はこのβ-lactamaseにきわめて安定であるので, β-lactam系薬治療無効例に対しても高い臨床効果が期待できることから, 今回特別調査を実施した。全収集症例563例のうち423例を解析対象症例として臨床効果を検討した。全体の有効率は68.6%であり, 前治療薬剤種類別にみるとペニシリン系注射剤無効例に対して74.0%, セフェム系注射剤無効例に対して65.9%の高い有効率が得られた。細菌学的効果では適応菌種全体において82.3%の高い菌消失率が得られ, 緑膿菌を含むシュードモナス属でも72.4%の菌消失率が得られた。検出菌のβ-lactamase産生の有無と菌消失率の関連を検討したが, 両者に明らかな差を見出し得なかった。また, 臨床効果でもβ-lactamase陽性例における有効率 (72.7%) とβ-lactamase陰性例の有効率 (80.9%) の間には有意差はみられなかった。前治療薬として使用されたペニシリン系注射剤はいずれもβ-lactamaseに不安定な薬剤であり, これらによる治療群で検出菌がβ-lactamase陽性であった症例に対する有効率は88.9%と高い有効率が得られた。しかし, ペニシリン系薬剤無効例でβ-lactamase陰性の症例に対するCFPMの有効率は100%とさらに高い有効率が得られ, 検出菌のβ-lactamase産生の有無と有効率の間に差は見出し得なかった。同様に前治療薬がセフェム系注射剤であったものも検討したが, 検出菌のβ-lactamase産生の有無による有効率に差異は見出し得なかった。以上より, β-lactam系薬による前治療無効例のうち, 検出菌のβ-lactamase産生菌に対しても非産生菌に対する有効率とほぼ同等の有効率が得られたことは, 本剤がβ-lactamaseにきわめて安定であるということを支持する結果と解釈することができた。また, 本剤発売6年を経た現在, 本剤開発時 (1990年) の他剤 (β-lactam系薬) 無効例に対する本剤の有効率 (全体: 62.5%, ペニシリン系: 40.0%, セフェム系: 68.4%) と比較しても同等以上の有効率が得られたことは, 臨床的に本剤に対する耐性菌の明らかな増加はみられないと推定することができる。

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