日本化学療法学会雑誌
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小児急性中耳炎症例における経口抗菌薬投与時の上咽頭細菌叢の変化
宇野 芳史
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2002 年 50 巻 6 号 p. 352-362

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抄録

経口抗菌薬投与中の小児急性中耳炎症例の上咽頭細菌叢のうちStreptococcus pneumoniae, Haemophilus influenzaeの変化について検討を行った。経口抗菌薬は, amoxicillin (AMPC), cefditoren-pivoxil (CDTR) を用い, 投与方法としては, 上咽頭からのこれらの細菌の除菌を目標として, AMPC (50mg/kg/day) の投与, CDTR常用量 (9mg/kg/day) の投与, CDTR倍量 (18mg/kg/day) の投与を行って検討した。検討対象は, 当院を受診した小児急性中耳炎症例のうち上咽頭からS. pneumoniae, H. influenzaeが検出された, 男児8人, 女児17人の25人である。検討の結果, 以下の結果を得た。
1) 25例中, S. pneumoniaeのみ検出された症例は18例, H. influenzaeのみ検出された症例は4例, S. pneumoniaeおよびH. influenzaeの両方が検出された症例は3例であった。S. pneumoniaeのみ検出された症例18例中同時に耐性遺伝子パターンの異なるS. pneumoniaeが検出された症例が2例あった。治療開始前に検出されたS. pneumoniaeの内訳はペニシリン感受性肺炎球菌 (PSSP) 2株, ペニシリン中等度耐性肺炎球菌 (PISP) 4株, ペニシリン耐性肺炎球菌 (PRSP) 17株であった。H. influemaeの内訳は, β-lactamase非産生アンピシリン感受性インフルエンザ菌 (BLNAS) 3株, β-lactamase非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌 (BLNAR) 4株であった。
2) PSSPとPISPは, AMPCの投与により, 全株上咽頭から消失していた。しかし, PSSPが検出されていた症例では, AMPCの投与後いずれもPRSPが検出されていた。PRSPは, 治療開始前に検出された17株は, AMPCの投与で2株消失, 4株は耐性遺伝子パターンの異なるPRSPに菌交代, 11株は残存, 3株が新たに出現していた。CDTR常用量の投与で治療開始前に検出された1株とAMPCの投与で出現した1株が消失したが, 残りの16株は残存した。CDTR倍量の投与では, PRSPの1株が耐性遺伝子パターンの異なるPRSPに菌交代, 新たに1株のPRSPが出現したが, 新たに消失したPRSPは認められなかった。最終的にはS. pneumoniaeは17株が残存したが, 治療開始前に検出された23株中9株はそのまま残存していた。
3) BLNASの3株は, それぞれAMPC, CDTR常用量, CDTR倍量の投与で消失していたが, これらの抗菌薬の投与中にも1株ずつのBLNASが出現し, 最終的には1株のBLNASが残存した。BLNARの4株は, それぞれAMPC, CDTR常用量の投与で2株ずつ消失していたが, これらの抗菌薬の投与中にもBLNARが新たに3株, 2株出現していた。最終的には1株のBLNARが残存したが, 治療開始前に検出されたH. influenzaeはすべて消失していた。
4) 上咽頭のS.pneumoniae, H.influemaeの残存と急性中耳炎の治療成績との間には明らかな関係は認められなかったが, 治療成績が良好であった群では, 治療開始前に検出された細菌の消失率が高く, いずれもAMPCで除菌されていた。また, 治療成績が不良であった群では, 治療開始前に検出された細菌が消失せず耐性遺伝子パターンの異なる細菌に菌交代している場合が多く認められた。

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