日本化学療法学会雑誌
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悪性腫瘍患者におけるバンコマイシンの薬物動態パラメータの変動
ベイジアン法による解析
寺町 ひとみ松下 良辻 彰
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2005 年 53 巻 6 号 p. 357-363

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抄録

Vancomycin (VCM) をmethicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA) 感染症患者 (腎機能は正常) に, 通常投与量を点滴静注投与したところ, 治療濃度域より実測血清中VCM濃度がかなり低い症例を経験した。本症例の原疾患に肺癌があることから, 癌または悪性腫瘍疾患のある患者群で, VCMの薬物動態パラメータの変動を, 臨床症例52例 (血1清クレアチニン値が0.6mg/dL以下) について解析した。
非担癌患者群は27例, 担癌患者群は25例で比較検討した。解析は2-compartmentmodelを用い, Bayesian法で薬物動態パラメータを推定した。Bayesian法による投与設計後の非担癌患者群の実測トラフ値とピーク値の平均血清中VCM濃度は, 10.53±3.01μg/mL, 24.18±0.11μg/mL, 担癌患者群10.96±4.07μg/mL, 25.51±1.92μg/mLともに両群に有意差はなかった。しかし, VCM投与量は, 非担癌患者群が26.40±11.22mg/kg/day, 担癌患者群が, 34.86±13.09mg/kg/dayと, 担癌患者群のほうが多かった。推定した薬物動態パラメータは, VCMの全身クリアランス (CL) および, 分布容積 (Vdss) は, 非担癌患者群0.056±0.018 (L/hr/kg), 1.05±0.34 (L/kg), 担癌患者群0.077±0.029 (Lhrkg), 129±0.41 (L/kg) とともに担癌患者群のほうが大きい値を示していた。予測性も良好な値を示した。
Bayesian法による解析の結果, 担癌患者群においてVCMのCL, Vdssが有意に非担癌患者群より夫きい値を示した。同じ血清中濃度を担癌患者群が実現するためには, 投与量の増量が示唆された。

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