日本化学療法学会雑誌
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医薬品によるQT間隔延長の最新知見
杉山 篤
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2006 年 54 巻 4 号 p. 303-307

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抄録

まれにしか起こらない薬物誌発性QT延長症候群を, 従来の非臨床試験や臨床試験の結果から正確に予知することは困難であった。その結果, 催不整脈作用のリスクのある薬物が臨床の現場で感受性を有する患者に処方され, 不整脈死という最悪の事態が世界中で多発した。このような薬物誘発性QT延長症候群の発生に伴う心事故を回避するため, ICHではS7BおよびE14ガイドラインを2005年5月にステップ4として調印し。非臨床試験および臨床試験の役割を明確に記載した。薬物によるQT間隔の延長を高い再現性および信頼性をもって予測できる試験が可能になり, 日本国内では, 非臨床試験と厳密なプロトコールによる臨床第1相試験の両者が陰性の場合は綿密な (thorough) QT/QTc試験 (ThQT) の代用になりうる, という解釈が生まれつつある。しかし。非臨床試験や臨床第1相試験により催不整脈リスクがいつも否定できるわけではない。また, 米国で販売を展開する場合にはこれらの試験結果にかかわらず, 米国食品医薬品局 (Food and Drug Administration; FDA) はすべての新薬に対してThQTを求めている。高品質のThQT試験を迅速にしかも適正価格で実施できる施設を充実させることが次の課題なのかもしれない。一方, 信頼性の高い催不整脈動物モデルを用いた評価を薬物開発の初期段階に実施することが開発期間の短縮のために有効と思われる。

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