抄録
本研究の目的は,肉牛肥育-水稲複合生産農家におけるリンの利用状況を,システムズバランスの手法により定量化することであった.調査は肉牛飼養頭数10頭の農家を対象とした.農家の生産システムを個別部門に分割したのち,各部門のリン収支を推定した.農家全体のリン効率は0.18であり,農家に投入されたリンの18%が生産物として産出された.リンのロスは水稲生産部門でもっとも大きく,水田土壌にリンが多量に蓄積することが示唆された.同農家においてすでに報告された窒素の利用状況と本研究の結果を比較すると,農家全体の効率はリン効率が窒素効率より低く,部門のロスは,リンが水稲生産部門で,窒素が肉牛肥育部門でもっとも大きかった.これらのことから,本研究で用いた手法はリンについても窒素と同様に農家レベルの利用状況を定量化する手法として有効と推察された.