日本畜産学会報
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一般論文(原著)
古・中期インド・アーリア文献「Veda文献」「Pāli聖典」に基づいた南アジアの古代乳製品の再現と同定
平田 昌弘板垣 希美内田 健治花田 正明河合 正人
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2013 年 84 巻 2 号 p. 175-190

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抄録

本研究は,BC1200~BC300年頃に編纂されたVeda文献/Pāli聖典をテキストに用い,古代インドの乳製品を再現・同定し,それらの乳加工技術の起原について推論することを目的とした.再現実験の結果,dadhi/dadhiは酸乳,navanīta/navanīta・nonītaはバター,takra/takkaはバターミルク,ājya/—はバターオイル,āmikṣā/—はカッテージチーズ様の乳製品,vājina/—はホエイと同定された.sarpiṣ/sappihaはバターオイル,sarpirmaṇḍa/sappimaṇḍaはバターオイルからの唯一派生する乳製品として低級脂肪酸と不飽和脂肪酸の含有量が多い液状のバターオイルであると類推された.Veda文献・Pāli聖典は,「kṣīra/khīraからdadhi/dadhiが,dadhi/dadhiからnavanīta/navanītaが,navanīta/navanītaからsarpiṣ/sappiが,sarpiṣ/sappiからsarpirmaṇḍa/sappimaṇḍaが生じる」と説明する.再現実験により示唆されたことは,この一連の加工工程は「生乳を酸乳化し,酸乳をチャーニングしてバターを,バターを加熱することによりバターオイルを加工し,静置することにより低級脂肪酸と不飽和脂肪酸とがより多く含有した液状のバターオイルを分離する」ことである.さらに,ユーラシア大陸の牧畜民の乳加工技術の事例群と比較検討した結果,Veda文献・Pāli聖典に記載された乳加工技術の起原は西アジアであろうことが推論された.

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© 2013 公益社団法人 日本畜産学会
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