日本畜産学会報
Online ISSN : 1880-8255
Print ISSN : 1346-907X
ISSN-L : 1880-8255
振動が牛の精蟲生存時間に及ぼす影響に就て(前報)
釘本 昌二枡田 精一
著者情報
ジャーナル フリー

1939 年 12 巻 p. 20-29

詳細
抄録

12囘の實驗例に於て振動時間3例は3時間9例は5時間で,振動數は1分間160-170乃至400-420迄行つたのであるが本實驗の範圍内では
(1) 振動時間と精蟲生存時間が反比例する様な明かな傾向は認め得なかつた。又振動囘數では反比例する傾向が窺はれたが何れも尚實驗例を加へなければ確固としたことは認められない。
(2) 振動期間中の保存温度と生存時間との關係に就ては9,10,11の各例で夫々25°C,30°C,25°Cに保温して振動を與へ振動後は10°Cの定温器に納め觀察したのであるが,著しい短縮は認められなかつた。勿論對照も振動期間中は同温度に保存し振動後も同様10°Cに保存したのである。然し振動,對照兩方共,常に10°Cに保存した他の各例に比較すれば幾分生存時間の短縮が認められた。
(3) 本實驗では水平振動は垂直振動より強く作用するであらうといふ著者等の豫想に反し其の差異は明瞭に認められなかつた。又短時間振動(3時間)では振動直後精蟲は反つて對照より活〓な運動をして居るのを認めたが5時間振動では常に對照より弱くなよつて居た。
(4) 對照を100とすれば水平,垂直振動の生存時間比は略70-90%であつて著者等の豫想した程生存時間に悪影響がないことを知つた。
末田氏の報告に依れば氏は牛の副〓丸より得た材料で振動數1分間140,振幅2cm,保存温度室温,振動時間30分,1時間,2時間,3時間,5時間の5例を行つて居るが,對照を100とすれば30分振動では水平44,垂直50,1時間では殆んど30分同様,2時間,3時間では水平62,垂直87,5時間振動では殆んど零である。對照の生存時間は16時間15分である。
之を要するに直腸マツサーヂ法に依つて採取した牛の精液を材料として振幅2cm,振動數1分間160-420,振動時間3-5時間,保存温度10°C-27°C,振動温度10-30°Cの諸條件の下に行つた實驗に於て,此の程度(精液は試驗管内で泡立つて居る)の振動では著者等の豫想した程悪影響はないもので換言すれば牛の精蟲は振動に對して相當に抵抗力のあることが略判明した。
然し實驗例が少い爲本實驗の結果を以て直ちに結論を下すことは尚早である。引續き温度,振動と精蟲の生存時間及之等と受胎力の關係に就て研究を進める考へである。

著者関連情報
© 社団法人日本畜産学会
前の記事 次の記事
feedback
Top