日本畜産学会報
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家畜集団中の遺伝的負荷
I. 乳牛
庄武 孝義野澤 謙
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1968 年 39 巻 4 号 p. 180-187

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抄録

近年,家畜の人工授精技術の発達により,特に乳牛の繁殖構造の変化は著しいものがある.種雄牛の数が減じ,種雄牛の残す子の数の変異性が増大してきた結果,集団の有効な大きさは減少してきている.野沢5,6)(1962,1965)は血統分析から,この繁殖構造の変化により,集団内平均血縁から寄与される近親交配の量が増大してきていることを観察した.
近親交配が増大すれば,近交退化の発現が懸念される.そこで日本における乳牛集団の近交退化についての知見を得るために,農林省福島種畜牧場および新冠種畜牧場の繁殖記録より,MORTON, CROW and MULLER3)(1956)の-logeS=A+BFの回帰式を求めることによつて,遺伝的負荷の量を推定した.ここでSは生存率,Aは環境による死亡および近親交配によらない(F=0)遺伝的死亡,Bは近親交配によつておこる遺伝的死亡を表わし,2Bが1接合体当りの致死相当量の下限を,2(A+B)が上限を表わす.
福島集団で接合体当りの致死相当量値は約1と推定されたけれども,両集団における遺伝的負荷の量は低く,統計的に有意なものではなかつた.故に,これらの集団に関する限り,有害遺伝子はすでに除かれていて,繁殖能力に関する近交退化は,強い近親交配を行なつても,それ程著しいものではないと思われる.
しかしながら,この両集団は特殊なものであり,近交退化がおこつた場合,直接経済的損害を受けるのは一般農家であるから,進伝的負荷の量は一般農家をも含めた集団で調査される必要がある.

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