新生子牛の第一胃は形態学的にも,また生理学的にも未発達で,栄養摂取過程は第四胃以下の消化機能に依存するところが大きく,成牛におけるごとき第一胃の有する意義は小さい.飼料摂取の増加にともない,子牛の栄養素消化吸収過程は,哺乳中の単胃型ともいうべき様式から,第一胃内発酵に依存する様式に変化する.このとき,体要求エネルギーの主要部分を充足すべき吸収栄養素は,漸次,低級脂肪酸(VFA)に変化する.われわれはこの移行期におけるVFAの吸収,体利用の発達を,動静脈差法により検索した.
ホルスタイン種雄子牛27頭(8週離乳,乾草濃厚飼料自由摂取)を1, 2, 4, 6, 8, 13週令において,ネンブタール麻酔下に開腹し,頸動脈,右第一胃静脈あるいは胃脾静脈,門脈,肝静脈,後大静脈より採血し,血中VFA総濃度を水蒸気蒸溜により測定し,ガスクロマトグラフィーにより各酸濃度を求めた.同時に第一胃内容液を採取し,同様の分析を行なつた.その結果,
1. 第一胃静脈総VFA濃度は,全子牛全週令において必ず頸動脈より高く,1週令においても第一胃よりのVFA吸収が認められた.第一胃静脈総VFA濃度は1~4週令において急激に増加し,4週令ですでに成牛レルに達した.この増加は酢酸およびプロピオン酸によるものであり,第一胃内酪酸はいかなる週令においてもほとんど第一胃静脈に出現しなかった.子牛の第一胃粘膜の酪酸代謝活性は成牛に比較して極めて低いことが知られているが,その低活性にもかかわらず,新生子牛でも酪酸は吸収に際して第一胃粘膜においてほとんどの部分が代謝転換をうけるものと考えられる.
2. 門脈では酢酸およびプロピオン酸濃度が週令とともに漸増したが,6週令以前において肝静脈酢酸は門脈よりむしろ高く,肝での酢酸放出が観察され,新生子牛肝では酢酸利用活性の低いことが認められた.8週令以降に肝での酢酸利用が観察されたが,門脈酢酸の大部分は肝静脈に出現し,酢酸は肝外組織において利用されるものと推慮された.肝でのプロピオン酸利用が週令とともに増加し,且つその利用は酸酢をはるかに凌駕し,新生子牛でも吸収プロピオン酸の主要代謝器宮は肝であることが認知された.
3. 後大静脈におけるVFA漸増は酢酸によって占められ,後躯での酢酸利用は13週令に至って顕著にみとめられた.
4. 上記の体内各組織器官におけるVFA代謝像を反映して,頸動脈では酢酸レベルのみがゆるやかに増加した.