63 巻 (1992) 6 号 p. 655-661
発情期の雌牛から発散されていると考えられる臭い物質(発情臭)の生物検定法の確立と,その発散源や効果の強弱を検討するため以下の実験を行なった.両端に雌牛を繋留した10×20mのパドックへ雄牛を放し,雌牛との個体間距離(IPD:inter-pair distances)を1分ごとに,10分間測定した.雄体は6頭雌牛は2頭ずつ2組の計4頭を供試し,雌牛の繋留位置を替え反復して測定した.実験は,発情牛と非発情牛,または,非発情牛と非発情牛の組合せのほか,非発情牛の尾根部に発情牛の腟粘液(発情腟粘液)または水を含ませたガーゼを付けた組合せ,発情牛または非発情牛の尿(発情尿または非発情尿)を同様に付けた組合せについて行なった.これらの測定値から分散分析法により,繋留場所,雌牛および雄牛の個体差,尿や発情腟粘液などの処理が個体間距離に及ぼす効果を解析した.その結果,発情牛と雄牛との個体間距離は非発情牛と雄牛のそれより有意(P<0.001)に短くなった.これまでに,雄牛は非発情牛よりも発情牛に接近することが知られているので,本法は雄牛の発情牛や非発情牛に対する選択行動をとらえる方法として妥当であることが確認された.また,IPDは,雌牛の繋留位置や雄牛や雌牛の個体差により異なることが検出できた.しかし,発情臭の発散源の1つと考えられている発情腟粘液や発情尿については,それらで処理された非発情牛と雄牛の個体間距離と,処理されなかったものと雄牛のそれとの間に有意な差が認められなかった.このことから,発情臭は尿や腟粘液以外から発散されるものと考えられた.