野生状態で生息する御崎馬について,1980年から1994年までの14間に血液型を応用して父子判定を行なった.判定に用いた血液型は,赤血球型が5システム,血液蛋白型が6システムであった.父子判定を行なった197例の中,55例(27.9%)は血液型だけで,60例(30.5%)は血液型および前年の繁殖シーズン中の母親と種雄馬の行動域から真の父親が判定できた.53例(26.9%)では血液型および前年の繁殖シーズン中の母親の配偶関係から父親を判定した.残りの29例(14.7%)では血液型が適合する種雄馬が2頭以上存在し,前年の繁殖シーズン中に母親の配偶関係が不安定であったので,父親は判定できなかった.母親が前年の繁殖シーズンに特定の種雄馬と安定な配偶関係を保った84例の中,真の父親と母馬が安定な配偶関係を保った種雄馬が一致しなかった例が21例(25%)観察された.この結果は,他の野生馬で報告されている「安定なハーレム群内の成雌馬であってもハーレム群外の種雄馬や独身雄と交配することがある」という観察結果を遺伝学的に立証するものである.