地理科学
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黒い森観光地域 : 需要及び供給,組織の実態の変化(マス・ツーリズム型観光地域の再構築,2008年度地理科学学会秋季学術大会)
シュターデルバウアー イエルク
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2009 年 64 巻 3 号 p. 151-167

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抄録

黒い森地域は,ドイツにおいて最も重要な観光地の一つである。その組織化された範囲にはUpper Rhine Valley(上流のライン川渓谷)を含み,Land Baden-Wurttemberg(バーデン・ヴュルテンブルク州)(南西ドイツ)に観光で宿泊する人のほぼ半分を受け入れ,自然の範囲の中では約4分の1(1,050万人の宿泊者)を受け入れる。潜在する魅力は,新鮮な空気,開かれた土地と森がおりなすモザイク,アクセスのよさ,古くからの伝統と豊かな農村部の構造を持つ低い山地の風景にある。ミネラルを含む温泉は,Baden-Baden(バーデンバーデン)またはBadenweiler(バーデンヴァイラー)のように国際的にもよく知られた温泉の基盤となっている。黒い森は,国内外からの客にとって定着した観光地だと考えられているが,次の3つの分野において対外的な問題に対応しなければならない。(a)グローバル化の過程では,『黒い森』というブランドに基づいたマーケティング戦略が必要であるが,それぞれの特徴を生かしたい自治体あるいはコミュニティ協同組合の要望と対立する。(b)黒い森における観光は,酪農や林業を基本とする山間部農業の経済的な補完産業として発展してきたが,その重要性はだんだんと失われてきている。観光市場は地域に埋もれているものや生産品を求めている。(c)グローバルな物差しで考える場合,グローバルな変化への対応が必要であると考えられる。工業化社会の後にくる人口構成の変化,ライフスタイルの多様化,地球温暖化の深刻さに対しては,地域的な規模での回答が求められている。黒い森における観光の歴史について簡単な調査を提示し,将来の発展に関していくつかの規制があることを指摘するために,最近の構造に関するいくつかの重要なデータを発表した。(a)1世紀前には,冬の観光は,夏の娯楽的観光に次ぐ2番目の季節として発展していた。しかし,近年は,雪があるという保証が減少し,人工雪を作ることが必要となり,ウインタースポーツはその意義を失っていく可能性が高い。(b)観光に関するインフラは,主に子どものいる家族及び中高年世代のニーズには適合しているが,おもしろさやイベントを求める若い世代の要望に対してはあまり応えていない。したがって,伸び率は下がっており,新しい戦略が必要である。(c)地域発展プログラムは,農業,林業及び観光産業における持続性を求めている。それらは農村社会全体における収入の重要な資源である。重要な対策は,Schwarzwald Tourismus GmbH(黒い森観光株式会社)によるコミュニティ協同組合の再組織化,既によく知られたイメージと新しいアイデアに基づいた観光商品の組み合わせ,世界的な気候変化に対応するマーケティング戦略にみられる。農村経済は,主に観光客の要望に焦点をあてながら,農業と観光を組み合わせたすきま経済に向かって発展している。これらの一般的な考察は,High Black Forest(黒い森の中心部)における主な観光自治体の一つであるHinterzarten(ヒンターツァーテン)の例を取り上げて掘り下げていく。結論として,将来の発展に向けた影響について議論する。

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