本稿では,東京大都市圏の低徴収率地域として検出された埼玉県南東部の4市(川口市,草加市,八潮市,三郷市)を事例に,低徴収率地域における社会経済的(非裁量)要因の地域差が,自治体の徴税施策に与える影響を明らかにすることを目的として,徴収率の推移,非裁量要因の特徴,低徴収率や非裁量要因への認識,徴税施策の導入と展開などに着目して検討した。本稿の分析により得られた主な知見は次の2点である。
第1に,非裁量要因の地域差が4市の政策的対応に影響を与えたことである。具体的には,4市の平均年収や人口流動率などの非裁量要因の違いが徴収率に影響し,4市が低徴収率とその規定要因を認識した時期に違いをもたらし,徴税施策の内容と導入時期に違いが生じた。
第2に,政策課題を認識する契機の違いが4市の政策的対応に影響を与えたことである。具体的には,国からの指示・指導,市議会議員からの指摘,低徴収率に問題認識をもつ市長の就任,市長や担当部局の自己分析といった異なる外的要因と内的要因が,異なる時期に契機となることで4市は政策課題を認識し,徴税施策の導入時期と展開に違いが生じた。