2022 年 71 巻 p. 0013-0032
本稿では、『法蘊足論』から『声聞地』への影響を検証するために、『法蘊足論』「無量品」の四無量定を考察し、他の有部文献や禅経典への影響を併せて検討した。この結果、『法蘊足論』に引用される経文は「勝解」を含むものであり、他の有部論書とともに『声聞地』に継承されたことが分かった。また『法蘊足論』は、言葉よりも禅定の重視という点で『修行道地経』に共通し、四無量定の対象という点で『修行道地経』を経て『坐禅三昧経』『達磨多羅禅経』『婆沙論』『声聞地』へと影響を与えたことが分かる。また『声聞地』の特徴である九種心住を含む止観理論は、『法蘊足論』の四無量定の集中方法に基づくことが明らかとなった。よって『声聞地』は禅経典や阿毘達磨論書の影響も受けているが、『法蘊足論』の修行論に自らのヨーガ理論構築の要素を見出していたといえる。