本論文は『金剛頂経』所説の瑜伽成就法であり、経典の基本的構造にも反映されている四種印智が、『理趣経』並びにその類本においてどのように説かれているのか、その内容を概観し考察を行ったものである。『金剛頂経』において四種印智の置き換えとされる「身語心金剛」が、「理趣経」では四種の印として第六段において説かれており、特に金剛印についてその変遷を中心として探った。
「金剛印」は、玄奘訳(菩提流志訳、金剛智訳)の段階では「金剛智印」であったものが、不空訳以降において「金剛印」と変遷していた。また不空訳以降の類本では金剛印の内容について差異があることが明らかとなった。それらを踏まえ、本論の最後では理趣経と『金剛頂経』との関係性について考察を行ったものである。