百科事典的性格を有する雑誌『Isis』の第 11 巻には、ドイツの博物学者オーケンによって合計 950 を超す音節数の漢字音が記されているが、言語研究でそれに言及した著述はこれまで存在しない。漢字音は粤語の基本的特徴の多くを満たすものの、19 世紀中期の広州方言との間には根本的な差異を呈する。本稿ではこの新資料に記される粤語音の体系と特徴を紹介し、続いて基礎方言の特定を行う。言語データ提供者 Aho の出身地が黄圃と考えられ、特徴の中でも排他性の強いものが現代語では莞宝片にのみ見られることから、基礎方言は香山県(現中山市)の三角方言と極めて近い関係に在ったことが分かる。