抄録
本稿は現代中国語におけるジャガイモ、サツマイモの通称を表す語をとりあげ、その語形分布地図を作成し、言語地理学的手法を用いて分析する。その主眼は新来事物を表す語がいかに既存語形と接触しながら独自の分布類型を獲得するか、その成立過程を明らかにすることにある。考察の結果、新語形の創造に二つの方式が見られた。一つは既存語形に修飾成分を付加する「援用方式」、もう一つは既存語形をそのまま自らのものにする「転用方式」である。これらの方式はいずれも既存語形との密接な関係において成立する。援用方式では対称項として既存語形を必要とし、新来事物と在来事物の呼称の分布が重なり合う。それに対して転用方式では同語衝突を回避するために相互の語形に操作が加えられ、一地域で同じ語形が重複して用いられることはない。