理学療法学Supplement
Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 717
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骨・関節系理学療法
人工股関節置換術後における股・膝関節周囲筋の筋力推移
*塚越 累大畑 光司市橋 則明江口 悟奥村 秀雄
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抄録

【はじめに】変形性股関節症に対する人工股関節全置換術(以下THA)後の筋力の回復に関する研究の多くは股関節外転筋を対象としており,外転筋力は術後10日では術前よりも低下するが,それ以降数ヶ月経過時点では術前よりも増加すると報告されている。しかし,THA後の股・膝関節周囲筋の筋力変化を経時的に評価した報告はほとんど無い。本研究の目的は,THA術前,術後の股・膝関節筋力を測定し,各筋の術後筋力推移の差を検討することである。
【対象と方法】対象は,当院でセメントレスTHAを施行した女性の変形性股関節症患者22人とした。平均年齢56.3±9.0歳, 身長153.8±6.5cm,体重53.1±8.6kgであった。術側と非術側の股関節の外転,伸展,膝関節の伸展及び屈曲の最大等尺性筋力をHand-Held Dynamometer(日本MEDIX社製;以下HHD)を使用して,股関節外転は仰臥位で股関節外転0度,股関節伸展は腹臥位で股関節伸展0度,膝関節の伸展と屈曲は座位にて膝関節屈曲90度で測定した。測定時期は術前,術後2,4,6週経過時点とした。筋力測定は2回繰り返し行い,測定は1人の検査者が全て行った。得られた筋力データは体重(Nm/kg)と術前比率(%)で正規化し,分析には反復測定分散分析と多重比較検定を使用し,有意水準は5%未満とした。
【結果と考察】HHDの検査者内信頼性ICC(1,2)は0.97~0.98であった。術側を筋力値(Nm/kg)で比較した場合,股関節外転と股関節伸展は術前から術後2週目にかけて有意に低下した。しかし,術後4週では双方とも術前と比較して有意な差は無く,術後6週では双方とも術前よりも有意に高かった。膝関節伸展は2,4,6週とも術前と比較して有意に低かった。膝関節屈曲は術前と2週では有意な差はなく,4週と6週では術前よりも有意に高い値であった。非術側の筋力値(Nm/kg)では,股関節外転と伸展は術後2週時点で術前より有意に低下したが,双方とも術後6週では術前より有意に高かった。非術側の膝関節伸展は,術後2週時点で術前よりも有意に低下したが,術後4週と6週では術前と比較して有意な差は無かった。術前後の変化率を比較する為に,各筋力の術前比率を求めた(術後筋力/術前筋力×100)。術前比率では,術後2週経過時点で股関節の外転と伸展,膝関節伸展は約60%であり,有意な差は無かった。しかし,膝関節屈曲は95.3%であり,前記の3つの関節運動に比べて有意に高かった。また,術後6週経過時点では,股関節の外転と伸展,膝関節屈曲は約135%であり,有意な差は無かったが,膝関節伸展は前記の3つの関節運動と比較して有意に低く,86.1%であった。以上の結果より,股関節外転筋力や伸展筋力,膝関節屈曲筋力に比べ,膝関節伸展筋力の回復が遅延することが判明した。

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© 2004 日本理学療法士協会
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