理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 595
会議情報

内部障害系理学療法
胸部CTを用いて測定した区域気管支角度に基づく体位排痰法の検討
*宮川 幸大沖川 隆志上口 秋彦高橋 尚明河島 英夫河波 恭弘
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
【はじめに】
 体位排痰法を行う際,排痰を期待する区域に続く気管支の走行をイメージすることが困難であり,期待される効果が得られない場合を時折経験する.そこで我々は,新たな取り組みとして,個々の患者に適した排痰肢位を設定するために,胸部CT画像を用いている.炎症部位の肺区域に続く区域気管支の角度および走行を評価し,効果的な排痰肢位を検討し,今回,著効を示した症例を経験したので報告する.

【症例】
 74歳男性.脳梗塞発症にて入院.順調に離床を進めていたが,第17病日右上葉肺炎,左下葉気胸を発症.WBC 14,400,CRP 5.87,SAT94%(室内気),胸式呼吸パタ-ン,呼吸数24回/分.第18病日より体位排痰法開始した.

【方法】
 第18病日,体位排痰法開始前に胸部CTを撮影し,三次元処理ソフトZioM900(ザイオ社製)を用いて肺炎部位の肺区域の同定とそれに続く区域気管支の角度(前額面,矢状面,水平面に対する)および走行を評価した.角度の計測は,前額面と矢状面では水平線を基線として区域気管支のなす角度を,水平面では,前額線を基線として区域気管支のなす角度をそれぞれ基線から反時計回りに計測した.計測した角度と走行に基づき,排痰肢位を決定した.10日後に炎症所見,呼吸状態,胸部CT撮影を行い,排痰肢位の効果判定を行った.

【結果】
 体位排痰法開始前の胸部CTにて右後上葉区(以下S2</sub>)に肺炎像を認めた.またS2</sub>の区域気管支(以下B2</sup>)は,前額面,矢状面においてそれぞれ128°,123°上方へ,水平面において143°後方へ走行していた.得られた区域気管支角度を基に本症例に適した排痰肢位を検討した結果,1)体幹約30°前屈および左側屈した端座位,2)ベッドアップかつ体幹30°前屈した側臥位,3)前方へ約60°傾けた側臥位の3つが適していた.今回は患者の苦痛を考慮し,2)の肢位を選択した.10日後のWBC 10,400,CRP3.26,SAT 97%(室内気),呼吸数20回/分,胸式呼吸パタ-ン,胸部CT画像にて肺炎像の改善および肺炎にて圧排されていた区域気管支より末梢の気管支の再開通を認め,施行した体位排痰法の効果が確認された.

【考察】
 先行研究にて健常人10例における区域気管支の走行を調査した際,個人差(B2</sup>は標準偏差20°)を認めており,このことからも個々の患者における気管支の走行に基づいて体位排痰法を行うことは重要であり,またその効果をより高めるためには,区域気管支だけではなく亜区域気管支の走行も考慮した肢位を選択することが望ましいと思われる.しかし,本症例のように肺炎に伴い末梢気管支が圧排され,亜区域気管支の走行を評価することが困難な場合もある.このような場合においては,区域気管支の走行に基づいた体位排痰法を行うことで臨床的に十分排痰効果を得ることができると考える.
著者関連情報
© 2005 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top