主催: 社団法人日本理学療法士協会
【目的】 高度に破壊された関節軟骨や半月板を人工軟骨で置換する治療は、臨床における夢の一つであるが、臨床使用に耐える人工軟骨はいまだ開発されていない。最近、我々は超低摩擦特性と高強度を有し、正常関節軟骨にその物性値が匹敵するダブルネットワーク(DN)ハイドロゲルを開発した。現在これらのゲル材料の生体への応用の可能性を探るべく、種々の角度から医工学的評価を行っている。本発表の目的は、4種類のユニークなDNゲルの材料特性とその生体内劣化を報告することである。
【方法】 評価対象はポリ-2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(PAMPS)-ポリアクリルアミド(PAAm)DNゲル、PAMPS-ポリジメチルアクリルアミド(PDMAAm)DNゲル、セルロース(Cel)-PDMAAm DNゲル、セルロース-ゼラチン(Cel-Gel)DNゲルの4種類である。直方体(10×10×5mm)に成形した各ゲル材料11個を用意した。そのうち5個は直ちに圧縮破壊試験(10%/min)に供した。残りの6個を6羽の白色家兎の背部皮下の4箇所にランダムに埋植し、6週間後に屠殺して手術創周囲の状態、ゲル材料周囲の状態、ゲル材料の変形について観察を行い、摘出ゲルの圧縮破壊試験を同様に施行した。各材料について埋植による効果の比較にはt検定を用い、有意水準は5%とした。
【結果】 埋植前のPAMPS-PAAm、PAMPS-PDMAAm、Cel-PDMAAm、およびCel-Gelゲルの平均破断応力はそれぞれ17.2、3.1、2.9、および3.7MPa、初期弾性率は0.33、0.20、1.60、および1.70MPa、破断歪は92、73、50、37%であった。なおこれらの含水率はそれぞれ90.4、94.0、85.0、78.0%、摩擦係数(tribometer計測)は0.01、0.01、0.02、および0.20であった。PAMPS-PAAm、PAMPS-PDMAAm、およびCel-PDMAAmには埋植による材料特性の劣化を認めなかった。しかしCel-Gelゲルでは破断応力は有意(p<0.0001)に低下し、含水率が有意(p<0.0002)に増加した。
【考察】 評価した4種類のDNハイドロゲルはそれぞれ特徴的な材料特性を有した。特に軟骨に匹敵する超低摩擦特性を有するPAMPS-PAAmおよびPAMPS-PDMAAmゲルは人工軟骨や半月板の素材として期待の持てる材料と考えられた。今後は生体適合性や耐久性など多くの基礎的な生体工学的評価が必要であり、人工軟骨および半月板に対する理学療法の裏づけにしていきたいと考える。
【まとめ】 4種類の高強度・低摩擦ダブルネットワークゲルの生体内における劣化特性を評価した。PAMPS-PAAmゲルおよびPAMPS-PDMAAmゲルは、極めて低い摩擦係数を持ちながら高い圧縮強度を有し、力学的特性の生体内劣化は起こりにくかった。Cel-Gelゲルでは顕著な生体内劣化を認めた。