主催: 社団法人日本理学療法士協会
【はじめに】
加齢による骨格筋の機能的能力の低下や萎縮は日常的にいわれているが、形態的所見からは明らかにされていない。さらに、廃用性による変化はラット等での実験が多く、人体での臥床期間と筋萎縮の関係を組織学的に検討した報告は少ない。
今回我々は比較的年齢の近い高齢女性で発症から死亡までの期間に差がある 2例を解剖する機会を得た。そこで献体より採取した筋肉を組織学的に比較検討したので報告する。
【症例】
症例1: 死亡時年齢90歳・女性・身長約145cm・死因;急性胆のう炎にて4日間入院中、誤嚥性肺炎にて急死。
症例2: 死亡時年齢92歳・女性・身長約145cm・死因;4ヶ月半入院中、肺炎にて死亡。
【肉眼的観察】
症例2 は症例1 に比較し、全体的に筋萎縮を認めた。特に、下腿三頭筋では強度の萎縮を呈し、症例1 が年齢相応な正常に対して、症例2 は識別が困難な状態であった。断面を比較すると症例1 は正常に近い厚みを保持していたが、症例2 では扁平化していた。
【組織学的観察】
本献体はホルマリン固定にて保存され、肉眼解剖時に上腕二頭筋・大腿直筋・腓腹筋・ヒラメ筋を採取した。標本はホルマリン固定後、定法にてパラフィン包埋をした。その後、5μmで薄切片を作製し、ヘマトキシリン・エオジン染色した横断面を光学顕微鏡にて観察した。症例1 では、各筋において筋線維の形状が保たれ、線維間は、結合組織で隔壁されていた。筋細胞も統一した大きさで原形が保たれていた。一方、症例2 では不規則な筋線維の配列間に多量の結合組織を観察した。また、筋線維数の著明な減少がみられ、形状も不規則であった。さらに、筋細胞も減少し、形状も大小さまざまで核が細胞の中心へ入り込んでいた。細胞間にも結合組織が多く、筋細胞の欠損部を埋めているように観察された。
今回観察された廃用性の変化は、筋線維数の減少のみならず、筋細胞の形態的不整がみられるなど退行性変化が強く認められた。
【まとめ】
今回比較的年齢差が少ない高齢女性の解剖を行い、上腕二頭筋・大腿四頭筋・腓腹筋・ヒラメ筋を採取した。その結果、入院期間が長かった症例の筋は肉眼的に萎縮が強くみられた。また、組織学的にも筋線維数が減少し、細胞も大小不同が散在すると共に結合組織が広範囲にみられた。