理学療法学Supplement
Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 607
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理学療法基礎系
歩行運動イメージは加齢とともに変化する:mental chronometryを用いた検討
*山田 実古川 裕之東野 江理小野 玲平田 総一郎坂田 敏郎
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抄録

【目的】ミラーセラピーに代表されるように、運動イメージは身体運動に大きな影響を与える重要な脳内過程である。運動イメージの時間的側面を調べる方法として心的時間測定(mental chronometry)がある。ヒトにおける直立二足歩行は、生後1年からほぼ一生を通じて用いられる移動手段である。日常生活能力や身体活動を維持する上で必要な両者の機能に関して、実際の歩行の運動遂行時間とそれをイメージした心的時間は一致するといった報告は存在するものの、その加齢変化を調べたものは見当たらない。本研究では、歩行の運動遂行時間と心的時間との時間一致が加齢によってどのように変化するのかを横断的に検討した。

【方法】対象は健常成人42名(57.8(18-86)歳、159.5cm、58.7kg)とした。平地自由歩行20歩を実際に遂行、かつ心的に運動イメージを行い、ストップウォッチを用いて時間測定を行った。実際の歩行運動遂行の時間測定は検者が行い、心的の場合には被験者自身で測定した。各々の測定を3回ずつ行い、その平均値を採用した。なお各測定値の信頼性は、実際の運動遂行時間では級内相関係数(ICC)= 0.98、心的時間ではICC = 0.94であった。歩行の運動遂行と心的の時間一致度は心的時間/運動遂行時間の比率を求め、これと年齢との関係をSpearmanの相関係数によって検討した。

【結果】実際の運動遂行時間は10.82±1.57秒であり、心的時間は16.79±4.28秒であった。心的時間が実際の運動遂行時間よりも短縮した例は一例もなく、時間一致度は1.57±0.33であった。時間一致度と年齢は有意な相関関係にあり(r=0.60、p=0.002)、加齢に伴って心的時間は延長することが示唆された。

【考察】運動イメージの際には、様々な運動関連領域が活動することが報告されているが、これらの機能が加齢に伴って低下するという報告は見当たらない。また歩行は、脊髄の中枢性パターン発生器によってpattern generateされた運動であるため、定常歩行での脳活動はさほど重要でないということも示唆されている。しかし、加齢に伴い心的時間が延長するという傾向を認めたことは、注意深く歩行しているという認識とは逆に、独りでに歩行を行っているという実際との相違が示唆された。このことは転倒にも影響を及ぼしている可能性があり、今後の検討課題である。

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© 2006 日本理学療法士協会
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