理学療法学Supplement
Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 115
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神経系理学療法
成人片麻痺者の歩行能力における経時的変化
縦断的計測から解ったことは
*豊田 平介山本 紘靖角 ちとせ守 由美山城 緑
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抄録
【目的】臨床場面において患者の歩行能力を評価していくことは歩行の自立性を判断する上で重要である。今回,成人片麻痺者において初期より歩行自立に至るまでの変化を歩行能力と動的バランスの評価により縦断的に行った。評価による経時的変化から歩行能力に関して検討したのでここに報告する。
【対象】成人片麻痺者3名。ケースA:脳梗塞(右基底核),左麻痺,歩行自立までの期間125日。ケースB:脳梗塞(右放線冠),左麻痺,歩行自立までの期間17日。ケースC:脳幹梗塞(右橋部),左麻痺,歩行自立までの期間30日。なお高次神経機能障害及び認知症はなく十分に理解可能なケースであった。
【方法】歩行能力の指標として10m歩行速度(以下:MWS)を計測した。動的バランスの指標として左右周りでのTimed “Up and Go” test(以下:TUG-RもしくはTUG-L)と左右片脚立位時間(以下:OLS-RもしくはOLS-L)を計測した。片脚立位時間は3回測定し,平均値を求めた。それぞれが同時に計測可能となった時点から歩行が自立するまでの5回を縦断的に計測した。分析方法は各ケースで得られたパラメータについてピアソンの相関係数の検定を行った。
【結果】ケースAはTUG-RとTUG-L(r=0.95,p=0.011)に有意な相関が認められた。ケースBではMWSとTUG-R(r=0.92,p=0.02),MWSとTUG-L(r=0.94,p=0.014),MWSとOLS-L(r=-0.97,p=0.004),TUG-RとTUG-L(r=0.99,p=0.0001)に有意な相関が認められた。ケースCではMWSとTUG-R(r=0.94,p=0.014),MWSとTUG-L(r=0.92,p=0.02),TUG-RとTUG-L(r=0.99,p=0.0004),TUG-RとOLS-L(r=-0.88,p=0.04),OLS-RとOLS-L(r=0.98,p=0.001)に有意な相関が認められた。
【考察】結果より,それぞれのケースに共通して有意な相関が認められたのはTUG-RとTUG-Lの間のみであった。これは経過の中で,左右周りにおいて同時的に計測時間が減少していくことを示し,動的バランスの獲得は左右周りのどちらにも同じに発揮されると考えられる。各ケースとも経過においてそれぞれの機能,能力は同時的に変化していくと思われ,全てのパラメータは一方向的に変化するものと考えられた。しかし結果では全てに相関するケースはなく,顕著な共通性も認めなかった。そのため今回の結果の中に歩行能力と動的バランスに関係性を見出すことができなかった。このことは歩行能力が身体機能の総体として表され,単に動的バランスなどが集約された能力として発揮しているのではないことを示しているのかもしれない。今後は多くのケースで検証していくことも必要であるが,各ケースにおける詳細な分析を集積し,バランス機能の変化点を見つけ出すことで,そこから歩行能力にどう繋がっていくかを探る作業が必要と考える。またその変化点を明らかにしていくことで歩行の自立性を判断する指標になると思われる。
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© 2006 日本理学療法士協会
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