理学療法学Supplement
Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 233
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神経系理学療法
頚髄損傷者の起立性低血圧に対する腹部圧迫帯の効果
頚動脈エコーによる頚動脈血流の測定を用いて
*上西 啓裕山本 義男木下 利喜生三宅 隆広小池 有美幸田 剣佐々木 緑中村 健田島 文博古澤 一成高橋 真紀
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抄録
【はじめに】頚髄損傷完全四肢麻痺者(頚損)のリハビリテーション(リハ)では起立性低血圧対策が重要な臨床的課題であり、起立性低血圧防止には腹圧負荷が有効であることが知られている。一方、高橋らは、頚動脈ドップラーエコーにより頚損の起立性低血圧発現時に、頚動脈血流が頭側から心臓側へ逆流することを報告した。今回われわれは腹圧負荷の効果を頚動脈血流の観点から検討することを目的に、頚損2名に対して起立負荷を行い、総頚動脈血流速度を測定した。
【方法】受傷2ヶ月の31歳男性(C7残存、Frankel A)と37歳男性(C5残存、Frankel A)を対象に測定を行った。起立台上で仰臥位を取り、十分安静を取った後、1分ごとに3回、心拍数、血圧と右側総頚動脈からの頚動脈血流速度をパルスドップラーエコー(GE社LOGIQ 500PRO)で測定した。その後、速やかに60度の起立負荷を行い、1分ごとに3回同様の測定を行った。また、腹部圧迫帯を使用して腹圧負荷を行い、同様の測定を行った。
【結果】症例1では60度の起立負荷1分後に20mmHg以上の収縮期血圧低下を認めた。その後、エコー上拡張期の逆流現象を認めると同時に立ちくらみなどの自覚症状が出現した。次に、十分な回復時間を取った後、腹圧負荷のもとで、60度の起立負荷を行った。自覚症状は発現せず、エコー上の逆流も消失した。症例2では60度の起立負荷1分後に40mmHg以上の収縮期血圧低下を認めた。その後、エコー上拡張期の逆流現象を認めると同時に、自覚症状が出現した。十分な回復時間の後、腹圧負荷を加えながら60度の起立負荷を行ったが、自覚症状は発症せず、エコー上の逆流も認めなかった。
【考察】起立負荷時における生理学的な変化として下肢への血液の移動による静脈還流量の減少が起こる。静脈還流の減少は心拍出量の減少をきたし血圧の低下を招く。血圧の低下は大動脈弓および頚動脈洞の圧受容器から、それぞれ迷走神経・舌咽神経を介して延髄孤束核等へ伝わる。延髄心血管中枢における交感神経活動の賦活化と、迷走神経の抑制も起こり、全体として末梢循環系の血管収縮と心拍数増加をきたす。この機序によって健常者においては姿勢変化による影響を打ち消し、結果として頚動脈血流は維持されている。頚損はこの経路のうち、延髄から末梢効果器への交感神経経路が遮断され、起立性低血圧が生じる。腹圧負荷は重力による腹部と下肢への血管内血液移動を減少させることにより、静脈還流量を維持し、血圧の低下を抑えることができるものと考えられる。今回の検討により、腹圧負荷が血圧の低下のみならず、総頚動脈血流の拡張期逆流現象も防止することが示された。
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© 2006 日本理学療法士協会
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