抄録
【はじめに】
近年、在院日数短縮のために変形性膝関節症(膝OA)患者に対し、術前に理学療法を実施する期間は少なくなってきている。しかしながら、術前のROMは術後のROMに影響を及ぼすことが明らかとなっており、術前の運動療法の重要性は認識されている。
そこで今回、膝OA患者にホームエクササイズとして入院前に大腿四頭筋ストレッチ(ストレッチ)を指導し、入院時の膝関節ROMに対する効果を検討した。
【対象および方法】
当院の整形外科を受診し、TKA目的で入院予約した膝OA患者18名33関節(両側膝OA15名、片側膝OA1名、片側TKA2名)をランダムにストレッチ指導群9名17関節(年齢:73.8±7.1歳、JOA score:63.1±16.9点、FTA:189.1±6.7°)、非指導群9名16関節(74.3±3.6歳、57.3±18.3点、187.5±8.4°)に分けた。
入院予約時に指導群に対して背臥位および腹臥位でのストレッチを指導し、実施状況の自己チェック表を入院時に回収した。評価項目は臥位時の膝関節屈曲、伸展ROMとし、入院予約時および入院時に被験者の属する群を知らない検者が東大式ゴニオメーターを用いて測定した。
【検討項目】
指導群、非指導群それぞれの入院予約時、入院時における膝関節ROMの変化の比較にはWilcoxon’s signed rank testを用い、有意水準を1%とした。
指導群のストレッチ実施日数と膝関節ROMの変化の相関はSpearman’s rank correlation coefficientを用いて求めた。
【結果】
指導群のストレッチ実施期間は73.0±40.7日(30日~142日)であり、実施率(実施日数/実施期間×100)は93.1±5.1%であった。
指導群の屈曲ROMは入院予約時120±20°、入院時130±12.5°であった(p=0.001)。非指導群では、入院予約時127.5±10°、入院時125±7.5°であった(p=0.11)。
また、指導群の伸展ROMは入院予約時-10±5°、入院時-5±7.5°であった(p=0.12)。非指導群では、入院予約時-12.5±10.6°、入院時-10±4.4°であった(p=0.33)。
ストレッチ実施日数と屈曲ROMの改善角度との相関はr=-0.14であり、有意ではなかった(p>0.05)。
【考察】
今回、指導群では膝屈曲角度において約10°の改善が得られたが、非指導群では改善しなかった。膝OAのホームエクササイズとして膝周囲の筋力強化のみならずストレッチも指導し、膝関節ROMの改善を図るべきであると考えられた。
ストレッチ実施日数と屈曲ROMの改善角度に相関がなかったことから今後、効果の得られる適切な実施期間を検討する必要があると考えられた。