抄録
【目的】昨年の本学会(第41回群馬学会)において、我々はマンシェットを用いて下腿部を加圧したまま足関節を等尺性に底屈させてMRIを撮像した結果、加圧が収縮中の筋形状に変化を与えることを報告した。本研究では定量化した加圧を段階的に加え、その変化によって弛緩時と筋収縮時の筋形状がどのように変化していくかを、超音波画像を用いて具体的に明らかにすることを目的とした。
【方法】対象は本研究の目的ならびに実施内容を説明し同意を得た健常成人男性21名(平均年齢 22歳)。足関節角度0°での下腿への4段階(0,50,100,150mmHg)の加圧条件下における弛緩時と等尺性足関節底屈運動時の筋形状変化を測定した。加圧は液中型水銀血圧計(YAMASU製)と14cm幅のマンシェットを用いて加えた。マンシェット上縁は、脛骨粗面の位置に合わせた。足関節底屈運動の抵抗にはテンションメータ(ヤガミ社製)を用い、足関節角度0°の位置でワイヤーの先に延長したナイロン製の紐を中足指節間関節で抵抗を受けられるように長さを設定し、測定張力が5kg重で保持できるように数回練習した後に測定した。筋形状の指標として腓腹筋内側頭の1.筋厚2.羽状角3.表層腱の移動距離4.深層腱の移動距離を測定するために超音波画像診断装置(GE社製LOGIQ400MD)を用いた。なおプローブの体表への接触の影響を排除するために、測定は水中において実施した。記録画像より上記各測定項目をそれぞれ3箇所測定し、その平均値を用いた。統計処理にはSPSS(ver.12)を用い、正規性の有無を確認後、二元配置の分散分析によって両者の交互性の有無を検定し、事後検定として多重比較検定(Scheffe法)を行った。有意水準は5%未満とした。なお本研究は首都大学東京研究倫理審査委員会の承認を受けて実施した。
【結果】弛緩時では、加圧力の増加に従って、筋厚と羽状角は変化せず、表層腱と深層腱は下腿から膝関節の方向へ有意に移動した。また筋収縮時においては、加圧力が0,50,100mmHgでは有意な変化はみられず、150mmHgの加圧力においてのみ表層腱と深層腱の移動が有意に減少していた。両者に加圧による交互作用はみられなかった。
【考察】本研究条件下において、弛緩時では筋形状すなわち筋厚や羽状角は変化せず紡錘状の形をしている下腿筋は、加圧が低い方向すなわち近位へとそのまま押し出されるように移動した。加圧力の増加に従って筋収縮時における表層腱と深層腱の移動がともに減少したが、これは加圧によって下腿三頭筋遠位の腱組織の静止張力が高まり、加圧しない状態と比較し筋収縮によって生じる筋力、いわゆる活動張力が少なく済んだためと考える。ただしこれは腱の粘弾性が低下した状態であるともいえるため、体表からの加圧を実施して運動負荷を行う場合には加圧力や加圧場所の検討が必要であると思われ今後の課題としたい。