理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1234
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理学療法基礎系
姿勢変化による腹壁筋の収縮様態の推定
*山本 泰三
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抄録

【目的】体幹スタビリティーの一部は、腹部を筒状に包み込んでいる腹横筋による腹腔内圧の調整によって獲得されている。姿勢変化による腹横筋の針筋電図を用いた評価では、Hodgesが仰臥位より座位にて収縮量が増加していることを、Jukerは座位と立位にて最大収縮の4%収縮していることを報告している。本研究の目的は、姿勢変化による腹部周径の変化と腹壁筋の厚さの変化を比較し、腹壁筋の収縮様態が求心性か遠心性かを推定することである。
【方法】対象は、腰部、腹部に病変を持たない健常男性10名で、年齢は29.5±4.7歳であった。腹部の周径は、へその高さに手縫い糸を巻きつけた後に計測した。腹壁筋は、超音波診断装置(東芝社製femirio8)を使用し、表層画像が測定できる14MHzリニアプローブを右前腋窩線で周径を測定したラインにあてて、安静呼気終末に静止画を撮影した。腹壁筋の厚さは、内蔵スケールにて外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋を計測した。測定肢位は、仰臥位、背もたれのない座位、立位に加えて、傾斜台を用いて内蔵が腹壁を圧迫しない45°頭低位の4種類とした。統計的検討は、分散分析(p<0.01)の後、Post-hocテストを行った。
【結果】腹部の周径は、仰臥位で80.4±7.2mm、背もたれのない座位で86.6±7.7mm、立位で83.4±7.1mm、45°頭低位で75.5±6.4mmであった。分散分析の結果、姿勢変化の主効果が認められ(p<0.001)、45°頭低位、仰臥位、立位、背もたれのない座位の順に太くなった。腹横筋の厚さは、仰臥位で3.7±0.7mm、背もたれのない座位で3.6±0.7mm、立位で3.9±1.0mm、45°頭低位で3.8±0.4mmであった。内腹斜筋の厚さは、仰臥位で11.6±2.0mm、背もたれのない座位で12.5±2.7mm、立位で12.2±2.5mm、45°頭低位で10.7±1.8mmであった。外腹斜筋の厚さは、仰臥位で8.4±2.5mm、背もたれのない座位で7.7±1.7mm、立位で7.2±2.0mm、45°頭低位で7.6±2.3mmであった。腹壁筋の厚さは、4種類の姿勢変化による主効果は認められなかった。
【考察】姿勢変化による腹部周径は、仰臥位、立位、背もたれのない座位の順に太くなっているのに対して、腹壁筋の厚さは、変化していなかった。先行研究のように姿勢変化により腹横筋の活動電位が増加しており、かつ、筋の長さが延長されて、筋の厚さが変化していなかったので、収縮様態は遠心性収縮が推察される。抗重力姿勢になれば、内蔵は腹壁を圧迫する。内蔵による腹壁の圧迫が少ない45°頭低位では、腹部周径が最も細かったにも関わらず、腹壁の厚さは変化していなかった。腹横筋をはじめとする腹壁筋は、筋の弾性による静止張力を加えた遠心性収縮により効率的張力を発生させていると推定される。

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© 2007 日本理学療法士協会
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